難治性腹水に対し腹腔静脈シャント術を施行した34例について 術後播種性血管内凝固症候群(DIC)発症の可能性を検討

医療法人社団 いちえ会 洲本伊月病院 緩和ケア外科
〇西尾 美帆・岡 頼子
藤田 逸郎・橋本 芳正

目的

当院では難治性腹水に対し腹腔静脈シャント(以下PV-s)を積極的に施行しており、累計174例となる。術後明らかな出血傾向を呈した症例は経験がないが、急速に状態悪化した症例は散見された。元々癌や肝硬変が進行した状態であり、DICか否かの判断は難しい。当院では5年前から術後血液検査に凝固系を加えており、そのデータからDIC発症の可能性を検討した。

方法

2016年からの5年間に新たにPV-sを施行した45例(男31:女14)のうち、透析患者1例、術後7日未満で死亡した4例、検査オーダー不備の6例を除いた34例(男23:女11)(肝硬変11:癌性腹膜炎20:肝硬変合併癌性腹膜炎3)について検査結果をDICスコアに換算し変化をみた。検査は①術前と術後②1日目③3or4日目④7日目⑤10or11日目⑥17or18日目に行った。

結果

血小板数、PT-INR、フィブリノゲン、D-ダイマーの4項目をDICスコアに換算した。術後数日で退院する事も多く、③以降は全例の結果は得られなかった。合計の平均値は肝硬変例①3.3②7.4③7.5④6.3、癌性腹膜炎例①1.7②4.2③3.7④4.2、肝硬変合併の3例を除外した癌性腹膜炎例①1.3②3.7③3.3④3.1と肝硬変例で高い値となった。術後D-ダイマーはほぼ全例でスコア3であったが、血小板数の減少が肝硬変例で顕著であった。スコアと余命には相関はみられなかった。

考察

癌も肝硬変も、血小板数や凝固系データに異常をきたす原因となる。原疾患も進行していく中、DICスコアの変化がどこまでPV-sによる影響か判断するのは難しいが、多くの症例でDICスコアは一時的に上昇するものの1週間前後をピークに数値は改善していくことが分かった。今後もDIC発症の可能性に十分注意しながら、PV-sを活用していきたい。