ラポール形成により緩和ケア患者のQOL向上に繋がる介入ができた症例 ~言語聴覚士として中咽頭癌患者の心理的変化に寄り添って~

医療法人いちえ会 洲本伊月病院 リハビリテーション部1) 看護部2) 緩和ケア外科3) 外科4)
〇濱口 達也1)、川 二美2)、伊藤 みずほ2)、西尾 美帆3)、岡 頼子3)、橋本 芳正4)

はじめに

自分の身体的状態を受け入れられず、聴覚障害や気管切開により会話もできなくなった為、不穏・暴力行為が出現、持続鎮静に至った転院患者に、言語聴覚士(以下ST)として介入した。思いを傾聴し、希望・要求を叶えたことでラポールが形成でき、STの専門性を生かした介入が可能となり、QOL向上に繋がった事例を報告する。

事例

68歳男性、生来聴覚障害あり。前医にて中咽頭癌と診断され、胃瘻造設.気管切開を施行後、化学放射線療法開始。治療中に不穏.暴力行為が出現し持続鎮静開始。治療継続は難しいと判断され前医と家族で相談の上、当院へ緩和目的で転院となった。転院後、鎮静中止するも暴力行為あり再鎮静。翌日に再度鎮静中止、「死ぬ」「殺せ」と興奮状態になるも、STとして根気よく筆談を続ける中で、「声を返せ」「胃瘻を外せ」等の要求があった。スピーチカニューレへ変更し、胃瘻抜去等を行うことにより徐々に態度は軟化、「話したい」「食べたい」等の前向きな要求が出現し嚥下訓練開始となった。誤嚥リスクは高い状態であったが、「食べることで頭が一杯」との発言から訓練を継続。わずかな摂取ではあったが精神的安定が得られ、笑顔も見られるようになり、家族と外出できるまでに至った。その後、状態悪化したが不穏になることなく、転院21日目に永眠。

考察

緩和ケア患者のQOL向上を図る上で、症状緩和だけでなくラポール形成が重要である。