腹水静脈シャント術54例の検討

緩和ケア外科 橋本芳正 西尾美帆

はじめに

肝硬変、肝癌の末期や癌性腹膜炎に伴う難治性腹水は患者のQOLを著しく低下させ、緩和ケアに難渋することが多い。
我々は平成13年から今日まで54例、のべ65回の腹水静脈シャント術(以下P-Vsと略)を行ったので検討し、報告する。

対象

54例の内訳は男34例、女20例、肝硬変(肝癌を含む)(以下LC)41例、癌性腹膜炎(以下PC)9例、その他4例であった。

年代 30歳代 40歳代 50歳代 60歳代 70歳代 80歳代
人数 2 6 8 8 21 5

結果

全例手術に伴う合併症はなかった。
3例で鎖骨下静脈が穿刺できず外頚静脈をカットダウンし挿入した。
P-Vsの入れ替えを要したのは計6例で内訳は、フィブリン等による閉塞4例、のべ9回、Hassabの手術に伴う入れ替え1例、流量不足のためハイフロータイプへの入れ替え1例であった。
当院経過観察中であった患者を除き、初診または転院からP-Vs手術までにかかった日数は1日から27日、平均6.18日で、4日以内に59%の患者にP-Vsを行った。

術後生存期間

生存期間 人数 コントロール良好 コントロール不良
7日以内 7 1 6
8~21日 10 9 1
22日~6ヶ月 17 17 0
6ヶ月以上 14 14 0

考察

22日以上生存した患者は全員良好なコントロールが得られQOLも著しく改善した。
3例にはHassabの手術を追加し全例生存中である。
しかし生存期間7日以内の7例のうち6例、8~21日の10例のうち1例の計7例は良好なコントロールは得られず満足してもらえる緩和ケアが行えなかった。

十分なコントロールが得られなかった症例

  性別 年齢 疾患 手術まで 生存期間  
1 81 LC 5日 5日 HCC、利尿は得られたが腹囲は改善しないまま永眠
2 77 PC 3日 1日 膵臓癌、自宅で我慢していた
3 71 LC 4日 1日 HCC、術後意識が十分回復しなかった
4 75 LC 4日 3日 HCC、紹介がぎりぎりだった
5 75 LC 4日 14日 HCC、浮腫はとれたが倦怠感軽減せず永眠
6 48 LC 3日 1日 アルコール性LC、ぎりぎりまで病院に来なかった
7 59 LC 3日 5日 HCC、年末年始で来院しなかった

まとめ

我々は予後の短い患者のQOL改善を早急に行うことが必要と考え可能な限り早期にP-Vsを行うようにしている。
予後1週間以内の症例は十分なコントロールが得られにくかったが、予後6日であっても人生で一番楽になったとの言葉が得られた症例もあり、手術自体の侵襲も少ないことから、予後1週間以上が予測される症例には積極的にP-Vsを行っていくのがよいと考える。